三味線とは

三味線音楽はなぜ細分化されているのか|地歌・長唄・義太夫などの違いが生まれた理由

三味線音楽について調べると、地歌、長唄、義太夫節、常磐津節、清元節、端唄、小唄、民謡、津軽三味線など、数多くの名前が出てきます。

同じ三本の糸を持つ三味線を使っているにもかかわらず、なぜこれほど多くの音楽ジャンルに分かれているのでしょうか。

その理由は、一つの三味線音楽が細かく分裂したからではありません。

三味線が歌舞伎、人形浄瑠璃、座敷音楽、舞踊、民謡など、異なる目的を持つ音楽文化に取り入れられ、それぞれの場所で独自に発展したためです。

三味線音楽の細分化は、単なる名称の違いではなく、演奏する場所、声の使い方、物語との関係、求められる音色、使用する楽器などの違いから生まれています。

三味線音楽は最初から一つではなかった

三味線は、16世紀中頃に琉球から大坂の堺へ伝わった三線をもとに、日本で改良された楽器とされています。

その後、三味線は近世の町人文化を代表する身近な楽器となり、歌や語りの伴奏、舞踊、芝居、座敷での演奏など、さまざまな用途に使われるようになりました。

重要なのは、最初に統一された「三味線音楽」が成立し、そこから各ジャンルが分かれたわけではないという点です。

三味線という新しい楽器が、それぞれ異なる音楽や芸能の中に取り入れられました。演奏する目的が違えば、必要とされる音色や奏法も変わります。その結果、複数の三味線音楽が並行して発展していきました。

江戸時代の三味線演奏を描いた浮世絵。喜多川歌麿「江戸の花 娘浄瑠璃」/Wikimedia Commons/Public Domain

「歌いもの」と「語りもの」の違い

三味線音楽を理解するうえで、最初に知っておきたいのが「歌いもの」と「語りもの」の違いです。

歌いもの

歌いものは、旋律を歌うことに重点を置いた音楽です。

代表的なものには、次のようなジャンルがあります。

  • 地歌
  • 長唄
  • 端唄
  • 小唄

長唄は、歌舞伎舞踊の伴奏音楽として生まれた歌いものです。唄の旋律や舞踊との結びつきが強く、細棹三味線の明るく歯切れのよい音が用いられます。

地歌は、上方を中心に発展した三味線音楽です。三味線を弾きながら歌う弾き歌いを基本とし、後には箏や胡弓、尺八との合奏も発達しました。

語りもの

語りと三味線による演奏風景。語りものでは、三味線が言葉や情景、人物の感情を支える
Photo: Rdsmith4 / Wikimedia Commons / CC BY-SA 2.5

語りものは、物語や登場人物の言葉、情景などを伝えることに重点を置いた音楽です。

三味線を伴奏とする語りものは、広く「浄瑠璃」と呼ばれます。

代表的なものには、次のようなジャンルがあります。

  • 義太夫節
  • 常磐津節
  • 清元節
  • 新内節
  • 河東節

義太夫節、常磐津節、清元節などは、同じ浄瑠璃の系統に含まれますが、物語の語り方、声の高さ、節回し、三味線の音色が異なります。

ただし、歌いものと語りものは完全に分けられるものではありません。

語りものにも旋律的に歌う部分があり、歌いものにも情景や物語を表現する部分があります。両者の違いは、歌と語りのどちらにより大きな比重を置いているかという傾向として考えると分かりやすいでしょう。

演奏する場所によって音楽が変わった

三味線音楽が細分化された大きな理由の一つが、演奏場所の違いです。

歌舞伎の舞台

歌舞伎では、俳優の演技や舞踊、舞台転換などに合わせて演奏する必要があります。

長唄は歌舞伎舞踊の伴奏として発展し、常磐津節や清元節も歌舞伎舞踊と深く結びつきました。

広い劇場で舞踊を支えるため、明快なリズム、華やかな音色、場面を印象づける節回しが求められました。歌舞伎舞踊では、長唄を歌いもの、義太夫節・常磐津節・清元節を語りものとして捉えることができます。

三味線を弾く役者を描いた浮世絵。歌舞伎と三味線音楽は密接に結びついて発展した
歌川国貞「三味線を弾く役者」/Wikimedia Commons/Public Domain

人形浄瑠璃の舞台

人形浄瑠璃では、太夫が一人で複数の登場人物や情景を語り分けます。

義太夫節の三味線は、太夫の力強い語りを支え、人物の感情、場面の緊張、天候や風景まで表現します。そのため、低く重い音を出せる太棹三味線が用いられます。

ここでは三味線は、単に旋律を添える伴奏楽器ではありません。物語の進行や登場人物の心理を音で描く役割を担っています。

座敷や小規模な空間

地歌、端唄、小唄などは、劇場だけでなく、座敷や社交の場など比較的小さな空間でも演奏されました。

地歌では、歌と三味線の繊細な呼吸や、余韻を生かした演奏が重視されます。箏や胡弓、尺八との合奏へ発展したことも大きな特徴です。

端唄や小唄では、短い歌詞の中に季節、恋愛、日常の情景などを表現します。端唄は江戸市中で広く流行し、座敷や寄席などでも演奏されました。

地域の祭りや民謡

民謡の三味線は、それぞれの地域に伝わる歌、踊り、祭り、労働のリズムなどと結びついています。

地域によって歌い方や拍子が異なるため、三味線の奏法も一つには統一されませんでした。

津軽地方では太棹三味線が使われ、津軽民謡の伴奏から、三味線そのものを前面に出した力強い演奏も発達しました。

上方と江戸では好まれる音が異なった

三味線音楽の違いには、地域の文化も大きく関係しています。

上方では、京都や大坂を中心に地歌が発展しました。座敷などの比較的小さな空間で演奏され、歌の細かな節回しや、三味線の柔らかな響きが重視されました。

一方、江戸では歌舞伎や舞踊と結びついた長唄、常磐津節、清元節などが盛んになりました。劇場で伝わりやすい、切れのよい華やかな音が好まれる傾向がありました。

文化デジタルライブラリーでも、上方では柔らかい音色、江戸では切れのよい華やかな音が好まれたと説明されています。

この地域差は、単なる方言のような違いではありません。

曲の構成、歌い方、撥の当て方、間の取り方、楽器の仕様にまで影響し、それぞれ異なる音楽文化を形作りました。

新しい演奏家の独立によってジャンルが生まれた

浄瑠璃の分野では、有力な太夫が師匠の芸を受け継ぎながら新しい工夫を加え、独立することで新たな流れが生まれることがありました。

常磐津節は、初代常磐津文字太夫が豊後節に工夫を加え、1747年に江戸で始めた浄瑠璃です。語る部分と歌う部分のバランスがよく、舞踊に適した音楽として発展しました。

清元節は、初代清元延寿太夫が富本節から独立し、1814年に始めました。高音を生かした艶のある節回しや、粋で軽妙な曲調が特徴とされています。

このように、演奏家の独立や新しい表現の創出が、別のジャンルや系統として定着することがありました。

現在では「常磐津」「清元」などを一つの音楽ジャンルのように捉えますが、その背景には、演奏家の名前や芸の継承系統があります。

音楽に合わせて三味線そのものも変化した

三味線は、どのジャンルでも同じ楽器を使用するわけではありません。

大きく分けると、三味線には次の三種類があります。

種類主に使われる音楽音の傾向
細棹長唄、小唄、端唄など軽く明るく、歯切れがよい
中棹地歌、常磐津節、清元節、民謡など柔らかさと厚みを併せ持つ
太棹義太夫節、津軽三味線など太く力強く、音量が大きい

棹の太さだけでなく、胴の大きさ、糸の太さ、駒、撥の形や重さなども異なります。

義太夫節では、太夫の語りに負けない重い音が必要です。一方、長唄では舞踊に合う軽快で明確な音が求められます。地歌では、歌や箏と調和する深く柔らかな音が重視されます。

つまり、ジャンルの違いによって奏法が変わっただけではなく、それぞれの音楽に適した三味線が作られるようになったのです。

このため、同じ三味線奏者であっても、一つのジャンルを習得すれば、ほかのすべてのジャンルを同じように演奏できるわけではありません。

主な三味線音楽の違い

ジャンル主な演奏場所・用途声と三味線の特徴
地歌上方の座敷、三曲合奏弾き歌いを基本とし、繊細な節回しや器楽的展開を持つ
長唄歌舞伎舞踊、演奏会華やかで歯切れがよく、唄と舞踊を支える
義太夫節人形浄瑠璃、歌舞伎太夫の力強い語りを太棹三味線で支える
常磐津節歌舞伎舞踊語りと歌のバランスがよく、舞踊性が強い
清元節歌舞伎舞踊高音と繊細な節回しによる粋で艶のある表現
端唄・小唄座敷、寄席、社交の場短い歌詞に季節感や恋愛、江戸の情緒を表す
民謡各地域の祭り、踊り、労働、祝い地域の歌い方やリズムに合わせて演奏する
津軽三味線津軽民謡、舞台、独奏太棹を用い、力強い撥音や即興的な展開を生かす

この分類は大まかなものです。

一つのジャンルの中にも時代、地域、流派、演奏家による違いがあり、複数の特徴を併せ持つ曲もあります。

「ジャンル」と「流派」は同じではない

三味線音楽を理解する際には、ジャンルと流派を分けて考える必要があります。

地歌、長唄、義太夫節、常磐津節、清元節、津軽三味線などは、主に音楽ジャンルを表す名称です。

一方、流派は、特定の師匠や家、伝承系統から受け継がれてきた演奏様式を表します。

同じ地歌であっても、京都系と大阪系の伝承では、節回し、撥づかい、使用する楽器、曲の伝え方などに違いがあります。同じジャンルの中に複数の流派や伝承が存在することも珍しくありません。

また、常磐津節や清元節のように、ジャンル名と演奏家の家名・芸の系統が密接に結びついている音楽もあります。

三味線音楽の名称が複雑に見えるのは、音楽ジャンル、流派、家名、地域名など、異なる種類の分類が並んで使われているためでもあります。

細分化は三味線音楽の豊かさでもある

三味線音楽が細かく分かれているのは、古い制度がそのまま残っているからだけではありません。

舞踊を華やかに見せる音、物語を力強く語る音、座敷で歌に寄り添う音、地域の祭りを盛り上げる音など、それぞれ異なる役割を追求した結果です。

三味線音楽の細分化は、用途に応じた専門化と考えることができます。

同じ三本の糸から生まれる音であっても、地歌と長唄、義太夫節と清元節、民謡と津軽三味線では、音色も間も撥の使い方も異なります。

それぞれのジャンルが何のために生まれ、どこで演奏されてきたのかを知ると、三味線音楽の違いが単なる名称の違いではないことが分かります。

三味線は一つの音色を持つ楽器ではなく、日本各地の芸能や生活文化に合わせて、いくつもの異なる声を獲得してきた楽器なのです。