曲目・歌詞解説

宇治巡り|歌詞の意味・松浦検校・詞章に織り込まれた宇治茶の銘を解説

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「宇治巡り」は、宇治の茶園を背景に、春から夏、秋へと移る景物の中へ多数の宇治茶の銘を巧みに詠み込んだ、地歌箏曲京流手事物です。

曲名は「うじめぐり」と読みます。作詞は田中幸次、三絃作曲は松浦検校箏手付八重崎検校によるものです。江戸後期に成立した曲で、松浦検校が手がけた「松浦の四つ物」のひとつに数えられています。

「寿」「若緑」「初昔」「小松の城」「綾の森」「姥昔」「譲り葉」「千代の緑」「後昔」「園の梅」「白梅」「川柳」「花橘」「折鷹」「小鷹」「一森」「喜撰」「滝の音」「菊水」「薄紅葉」「老楽」「舞鶴」など、茶の銘を詞章の流れに溶け込ませている点が大きな特色です。

「宇治巡り」の基本情報

項目内容
曲名宇治巡り
読みうじめぐり
分類地歌・箏曲、京流手事物
作詞田中幸次
三絃作曲松浦検校
箏手付八重崎検校
主な編成歌・三絃、箏
構成前歌-手事-中歌-手事-後歌
成立江戸後期
主題茶摘みの春から秋までの景物に、宇治茶の銘を次々と詠み込む趣向

辞典類では、「宇治巡り」は松浦検校作曲の京流手事物で、宇治茶の銘を詞章全体に詠み込み、前歌を春、中歌を夏、後歌を秋に配した曲と説明されています。松浦検校は「宇治巡り」のほか「四季の眺」「四つの民」「深夜の月」を手がけており、これらは合わせて「松浦の四つ物」と呼ばれています。

「宇治巡り」とは

「宇治巡り」は、宇治茶で知られる茶園の春から始まり、夏を経て秋へと移る景物の中に、数多くの茶の銘を連ねた曲です。自然描写や古典的な語句が、そのまま茶銘としても響く二重の趣向を楽しむことができます。

「宇治」は古くからの景勝地であると同時に、茶の名産地として知られます。この曲では、宇治の景物を叙する文章の中へ茶の銘を次々と忍ばせ、春・夏・秋の季節感と寿ぎの言葉を重ねています。

宇治巡りの歌詞

万代を、摘むや茶園の春風に、寿添へて佐保姫の、賑はふ袖の若緑。人目をなにと初昔。霞を分けて青山の、

小松の城や綾の森、千歳障りもなしむしに、

齢ひ老いせぬ姥昔。誰にも年を譲り葉の、千代の緑の松の尾の、神代の末の後昔。

光を添へて園の梅、なお白梅の色香にも、深くぞうつる川柳。湖水越すだに宇治の波、初花見する山吹の、

花橘の匂ふてふ、夢を結ぶの折鷹や、小鷹の爪に枝しめて、

木蔭も多き一森の、喜撰の庵の夏の峯。滝の音をも菊水の、朝日山の端、薄紅葉、高尾の峰に雁がねの、あさる声々笠取の、数万所面白や。

心を澄す老楽は、祝ひの代にうたふ舞鶴。

※本記事の歌詞は、ユーザー様よりご提供いただいた詞章を底本としています。判読・解釈の難しい箇所は本記事冒頭の備考をご参照ください。譜本や流派によって表記が異なる場合もあります。

歌詞全体の意味

万代(よろずよ)にわたる茶園の春風の中で、茶を摘む袖には、佐保姫(春を司る女神)が寿ぎを添えたかのような若緑の賑わいが見えます。「寿」「若緑」「初昔」「小松の城」「綾の森」といった茶銘を織り込みながら、霞の向こうに広がる春の景色へと詞章が展開していきます。

「姥昔」「譲り葉」「千代の緑」「後昔」と、長寿や代々の継承を思わせる語を茶銘として重ねながら、千代・神代という長い時間のイメージを広げていきます。

梅や柳、宇治の波、山吹と春の景物が続きます。その中にも「園の梅」「白梅」「川柳」などの茶銘が自然に織り込まれています。

花橘の香りから鷹を思わせる語へと詞章が移り、「花橘」「折鷹」「小鷹」といった茶銘が連ねられます。

木陰の深い夏の峰から、滝の音、菊水、薄紅葉、雁の声へと季節は秋へ向かいます。この流れにも「一森」「喜撰」「滝の音」「菊水」「薄紅葉」などの茶銘が織り込まれており、叙景と茶銘が二重に読める詞章になっています。

結びでは「老楽」「舞鶴」という茶銘を、老いの楽しみや祝いの鶴という吉祥のイメージに重ねて、めでたく曲を締めくくります。

曲名「宇治巡り」の意味

「宇治」は京都南郊の景勝地であると同時に、古くから茶の産地として名高い土地です。「巡り」という曲名には、宇治の景物をたどる趣とともに、詞章の中に散りばめられたさまざまな茶の銘を次々とたどっていく面白さがあります。

曲名には、

  • 宇治の茶園に始まる、春の若々しい情景と茶銘の詠み込み
  • 梅・柳・山吹と移り変わる、花々の彩り
  • 自然描写の中に「喜撰」「菊水」「薄紅葉」などの茶銘を織り込む趣向
  • 前歌の春、中歌の夏、後歌の秋へと移る季節感
  • 祝いの世にうたわれる、舞鶴の寿ぎ

といった意味が重ねられています。

「万代を摘むや茶園の春風に寿添へて佐保姫の賑はふ袖の若緑人目をなにと初昔霞を分けて青山の小松の城や綾の森千歳障りもなしむしに」

冒頭では、宇治の茶園における、春の賑やかな情景が歌われます。

「佐保姫」は春を司る女神です。ここでは茶摘みの春景色の中に、「若緑」「初昔」「小松の城」「綾の森」などの茶銘が次々と詠み込まれます。普通の景物や言葉として読める一方で、茶の銘としても響くことが、この曲の大きな趣向です。

「齢ひ老いせぬ姥昔誰にも年を譲り葉の千代の緑の松の尾の神代の末の後昔」

続いて、永遠の齢(よわい)を寿ぐ言葉が歌われます。

「譲り葉」は新旧の葉が入れ替わる姿から代々の継承を象徴する縁起物です。この一節では、そうした長寿・継承の言葉の中に「姥昔」「譲り葉」「千代の緑」「後昔」といった茶銘が詠み込まれています。

「光を添へて園の梅なお白梅の色香にも深くぞうつる川柳湖水越すだに宇治の波初花見する山吹の」

この一節では、宇治を彩る花々が歌われます。

梅、柳、宇治川の波、山吹と春の景物が続きます。同時に「園の梅」「白梅」「川柳」などが茶銘として詠み込まれており、景色の描写と茶の銘が重なるところに詞章の面白さがあります。

「花橘の匂ふてふ夢を結ぶの折鷹や小鷹の爪に枝しめて」

続く一節では、花橘の香りとともに、鷹狩りの情景が歌われます。

「花橘」「折鷹」「小鷹」はいずれも茶銘として詞章に組み込まれています。花の香りから鷹を思わせる語へと自然に言葉をつなぎながら、茶銘を並べていく技巧が見どころです。

「木蔭も多き一森の喜撰の庵の夏の峯滝の音をも菊水の朝日山の端薄紅葉高尾の峰に雁がねのあさる声々笠取の数万所面白や」

この一節では、夏から秋へと移る景物の中に、宇治茶の銘が次々と詠み込まれます。

「喜撰」は喜撰法師を連想させる語であると同時に茶銘でもあり、「菊水」「薄紅葉」なども茶の銘として詞章に組み込まれています。朝日山、高尾、笠取など景物として読める語を連ねながら、茶銘を探していくことが、この一節を味わう大きな手がかりです。

「心を澄す老楽は祝ひの代にうたふ舞鶴」

結びでは、祝いの心をもって、舞鶴(鶴の舞)がうたわれます。

「老楽」「舞鶴」は茶銘であると同時に、老いの楽しみと長寿・吉祥の鶴を思わせる言葉です。茶銘を詠み込む趣向を、寿ぎのイメージでめでたく締めくくる結びとなっています。

曲の構成

「宇治巡り」は、大きく次のように捉えると分かりやすい曲です。

  1. 前歌
  2. 手事
  3. 中歌
  4. 手事
  5. 後歌

前歌

前歌では茶園の春の賑わいを背景に、「若緑」「初昔」「小松の城」「綾の森」「姥昔」「譲り葉」「千代の緑」「後昔」「園の梅」「白梅」「川柳」などの茶銘が巧みに詠み込まれます。

手事・中歌

手事を挟んで、梅・柳・山吹の彩りや、花橘・鷹狩りの情景が歌われます。

後歌

後歌では秋の景物を背景に、「菊水」「薄紅葉」「老楽」「舞鶴」などの茶銘が詠み込まれ、寿ぎの言葉で曲が締めくくられます。

他の曲との関連

「宇治巡り」は、松浦検校が手がけた「四季の眺」「四つの民」「深夜の月」とあわせて「松浦の四つ物」と呼ばれています。同じ作曲者による一連の曲として、あわせて聴き比べると、松浦検校の作風への理解がより深まります。

演奏するときのポイント

景物と茶銘の二重の意味を意識する

歌詞には、自然の景物や古典的な語句として読める言葉と、宇治茶の銘とが重ねられています。どこが茶銘として詠み込まれているかを意識すると、詞章の洒落と構成の巧みさが伝わりやすくなります。

寿ぎの心を全体に通わせる

「千代」「譲り葉」「菊水」「舞鶴」など、随所に長寿や祝賀を思わせる言葉が織り込まれています。茶銘を連ねる趣向だけでなく、祝いの心が全体を貫いていることも意識したいところです。

春・夏・秋の移ろいを対比させる

春の茶摘みに始まり、夏の峰を経て、秋の薄紅葉へと季節が移ります。それぞれの季節の空気を描き分けると、茶銘を織り込んだ詞章の流れがより伝わりやすくなります。

「宇治巡り」の聴きどころ

  • 佐保姫の寿ぎに彩られる、冒頭の茶摘みの春景色
  • 譲り葉や松の尾に込められた、永遠の齢への願い
  • 梅・柳・山吹と移り変わる、宇治ならではの花の彩り
  • 喜撰法師ゆかりの庵に込められた、古典的な故事
  • 菊水の故事にちなむ、長寿への願い
  • 「菊水」「薄紅葉」「老楽」「舞鶴」など、秋から結びにかけての茶銘
  • 祝いの世にうたわれる、結びの舞鶴
  • 「松浦の四つ物」のひとつとしての、格調高い作風

まとめ

「宇治巡り」は、松浦検校作曲、八重崎検校箏手付による地歌・箏曲の京流手事物です。

茶摘みの春から夏、紅葉の秋へと移る景物の中に、数多くの宇治茶の銘を詠み込んだ、格調高く遊び心のある詞章が特徴です。「四季の眺」「四つの民」「深夜の月」とあわせて「松浦の四つ物」と呼ばれ、松浦検校の作風を代表する一曲です。

演奏を聴く際は、景物と茶銘が重なって聞こえる詞章の趣向や、随所に込められた寿ぎの心、春・夏・秋の移ろいにも耳を傾けると、曲の魅力がより深く味わえます。