曲目・歌詞解説

七小町|歌詞の意味・光崎検校・小野小町の七つの物語を解説

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「七小町」は、小野小町にまつわる七つの謡曲――いわゆる「七小町」の物語――を綴った、地歌箏曲京流手事物です。

曲名は「ななこまち」と読みます。三絃作曲は光崎検校生田流、天保年間〈1830~1844年〉ごろ、京都)、作詞は京都の船坂三枝、箏手付八重崎検校によるものです。「草紙洗小町」「通小町」「雨乞小町」「関寺小町」「卒都婆小町」「清水小町」「鸚鵡小町」という、小野小町を主人公とする七つの謡曲の内容を、ひとつの詞章の中に凝縮して描いています。

「七小町」は、小町にまつわる七つの謡曲の故事や言葉を、掛詞や連想を用いて次々と綴った、教養豊かな京流手事物の名曲です。若き日の才知を伝える伝説と、老境の小町を描く物語とが一曲の中で交錯します。

「七小町」の基本情報

項目内容
曲名七小町
読みななこまち
分類地歌・箏曲、京流手事
作詞船坂三枝(京都)
三絃作曲光崎検校(生田流、京都)
箏手付八重崎検校
主な編成歌・三絃、箏
三絃調弦本調子二上り-高三下り
箏調弦雲井調子平調子-中空調子
構成前歌-手事(マクラ・手事・チラシ)-後歌
成立天保年間(1830~1844年)ごろ
主題小野小町にまつわる七つの謡曲(七小町)を綴った詞章

「七小町」は光崎検校作曲、八重崎検校箏手付による京流手事物で、江戸後期の天保年間ごろに成立したとされます。小野小町を主人公とする七つの謡曲――草紙洗小町・通小町・雨乞小町・関寺小町・卒都婆小町・清水小町・鸚鵡小町――を踏まえた詞章で、それぞれの物語を示す言葉や掛詞が巧みに綴り込まれています。

「七小町」とは

「七小町」は、平安時代の歌人・小野小町を主人公とする、能楽の「七小町」と呼ばれる七つの曲の内容を、ひとつの詞章の中に織り込んだ曲です。

小野小町は絶世の美女とうたわれ、多くの男性から求愛されたと伝えられる一方、晩年は零落し、みすぼらしい姿で諸国をさまよったという伝説でも知られています。能の「七小町」は、この小町にまつわる七つの物語――若き日の才知や美貌を描くもの、晩年の零落を描くものなど――を指し、地歌「七小町」は、それぞれの物語の要点を短い詞章の中に凝縮して描いています。

若き日の才知を伝える伝説と、老境の小町を描く物語とが交錯する詞章は、後世に形成された多様な「小町像」を一曲の中に凝縮したものといえます。

七小町の歌詞

蒔かなくに何を種とて浮草の浪の畝々生ひ茂るらん。草子洗ひも名にしおふ、その

深草の少将が百夜通ひも、理や日の本ならば照りもせめ、さりとてはまた天が下とは。

下ゆく水の逢阪の、庵へ心、関寺の、うちも卒都婆も袖褄を、引く手あまたの昔は小町。

今は恥し市原野。古跡もきよき清水の、大悲の誓ひかがやきて。

曇りなき世に雲の上、在りし昔はかはらねど、見し玉簾の、内やゆかしき、内ぞゆかしき。

※本記事の歌詞は、ご提供いただいた尺八譜に掲載された詞章を底本としています。判読の難しい箇所は本記事冒頭の備考をご参照ください。譜本や流派によって表記が異なる場合もあります。

歌詞全体の意味

誰も蒔いたわけではないのに、いったい何を種として、浮草は波間にうねうねと生い茂っているのでしょうか。草紙を洗ったという故事で名高い、あの一件。

深草の少将が百夜にわたって通い続けたという故事も、理にかなったことでしょう。この国が「日の本」と呼ばれるならば、日が照るのは当然のことでしょうが、そうはいっても、ここは「天が下」でもあるのです。

流れ下る水のように移ろう、逢坂の関寺に庵を結ぶ心。卒塔婆に腰かけて問答したというその姿にも、袖を引く手が数え切れないほどあった昔の小町の面影が重なります。

今は恥ずかしい思いで暮らす市原野。その古い跡も、清らかな清水の観音様の、大いなる慈悲の誓いに照らされて輝いています。

「雲の上は、ありし昔に変らねど、見し玉簾の内やゆかしき」は、謡曲「鸚鵡小町」で帝から小町に贈られる歌です。老いた小町は、その「や」を「ぞ」に一字だけ替えて「内ぞゆかしき」と返します。これは「鸚鵡返し」と呼ばれる趣向で、老境にあっても失われていない小町の歌人としての才知を示しています。

曲名「七小町」の意味

「七小町」は、小野小町を主人公とする七つの謡曲――草紙洗小町・通小町・雨乞小町・関寺小町・卒都婆小町・清水小町・鸚鵡小町――の総称です。

地歌「七小町」は、これら七つの物語の要点を、ひとつの詞章の中に凝縮して描いています。

曲名には、

  • 小野小町にまつわる、七つの異なる謡曲の物語
  • 若き日の才知と美貌、晩年の零落という、対照的な二つの面影
  • 数え切れないほどの求婚者を袖にした、昔の小町への追憶
  • 過去の栄華をなお慕う、老いた小町の切ない心情

といった意味が重ねられています。

「蒔かなくに何を種とて浮草の浪の畝々生ひ茂るらん草子洗ひも名にしおふその」(草紙洗小町)

冒頭は、謡曲「草紙洗小町」を踏まえた一節です。

「蒔かなくに何を種とて浮草の浪の畝々生ひ茂るらん」は、歌合の場で小町の歌とされた一首です。ライバルの大伴黒主が、この歌を古い万葉集の歌だと偽って小町を陥れようとしますが、小町がその草紙(写本)を洗うと、後から書き加えられた墨が流れ落ち、自らの潔白を証明したという物語です。小町の才知と機転を伝える逸話として、曲の冒頭に置かれています。

「深草の少将が百夜通ひも理や日の本ならば照りもせめさりとてはまた天が下とは」(通小町・雨乞小町)

続く一節には、「通小町」と「雨乞小町」の二つの物語が重ねられています。

「深草の少将が百夜通ひ」は、小町に求愛した深草の少将が、百夜通い続ければ想いに応えるという約束のもと、雨の日も雪の日も通い続けたものの、九十九夜目に力尽きて亡くなってしまったという「通小町」の物語です。続く「理や日の本ならば照りもせめ、さりとてはまた天が下とは」は、日照りの際に小町が和歌を詠んで雨を降らせたという「雨乞小町」の逸話にちなむ一節で、日の本(日が照る国)であると同時に天が下(雨も降るべき天の下)でもある、という機知に富んだ理屈が歌われています。

「下ゆく水の逢阪の庵へ心関寺のうちも卒都婆も袖褄を引く手あまたの昔は小町」(関寺小町・卒都婆小町)

この一節には、「関寺小町」と「卒都婆小町」の物語が重ねられています。

「関寺小町」は、老いた小町が近江・関寺のほとりに庵を結んで暮らす姿を描いた物語です。「卒都婆小町」は、老いさらばえた小町が卒塔婆に腰掛けて休むところを高野山の僧にとがめられ、仏法の問答で言い負かすという物語です。「引く手あまたの昔は小町」という結びには、これほど零落してもなお、かつては数え切れないほどの求婚者があった、という小町の栄枯を対比させる思いが込められています。

「今は恥し市原野古跡もきよき清水の大悲の誓ひかがやきて」(鸚鵡小町・清水小町)

この一節には、「鸚鵡小町」と「清水小町」の物語が重ねられています。

「鸚鵡小町」は、老いて市原野の荒れ果てた庵に暮らす小町のもとを、陽成院の勅使が訪ね、和歌を詠み交わす物語です。「今は恥し」という言葉には、かつての栄華とは打って変わった、みすぼらしい暮らしへの恥じらいが込められています。続く「清水の大悲の誓ひかがやきて」は、清水寺の観音の慈悲にすがる、清水小町にまつわる一節と考えられます。

「曇りなき世に雲の上在りし昔はかはらねど見し玉簾の内やゆかしき内ぞゆかしき」

結びでは、最後の「鸚鵡小町」の故事が取り上げられます。帝から贈られた歌に対して、小町が一字だけを替えて返歌する「鸚鵡返し」が詞章の結びになっています。

「雲の上」は宮中を指します。この一節は謡曲「鸚鵡小町」の中心的な趣向を踏まえたもので、帝の歌「内やゆかしき」に対し、小町が「や」を「ぞ」に替えただけの「内ぞゆかしき」と返します。単なる反復ではなく、一字を替えるだけで返歌を成立させる「鸚鵡返し」であり、老いた小町の才知を印象づける結びです。

手事の特徴

「七小町」の手事は、マクラ・手事・チラシという段階を踏んで展開する、長い間奏を持つ京流手事物の名曲です。

七つの物語を経てきた詞章の余韻を受け止めるように、技巧的で聴き応えのある器楽的展開を見せます。

曲の構成

「七小町」は、大きく次のように捉えると分かりやすい曲です。

  1. 前歌
  2. 手事(マクラ・手事・チラシ)
  3. 後歌

前歌

前歌では、草紙洗小町・通小町・雨乞小町・関寺小町・卒都婆小町・鸚鵡小町・清水小町という、七つの物語の要点が凝縮して歌われます。

手事

手事はマクラから始まり、本手事、チラシへと展開する、長い間奏を持つ聴かせどころです。

後歌

後歌では「鸚鵡小町」の帝の歌と小町の「鸚鵡返し」にちなむ詞章が歌われ、小町の才知を印象づけて曲が結ばれます。

三絃の役割

三絃は本調子から二上り、高三下りへと調弦を変えながら、七つの物語それぞれの情景と、小町の心情の変化を描き分けます。

光崎検校による旋律は、京流手事物らしい、品格と技巧を兼ね備えた作りになっています。

箏の役割

箏の手付は八重崎検校によるもので、半雲井調子から平調子、中空調子へと調弦が変化します。

三絃の調弦の変化に寄り添いながら、七つの物語が織りなす曲全体の陰影に彩りを添えます。

演奏するときのポイント

七つの物語を手際よく描き分ける

歌詞は、七つの異なる謡曲の内容を短い詞章の中に凝縮しています。それぞれの物語の要点を意識しながら、手際よく場面を描き分けることが大切です。

栄華と零落、対照的な二つの面影を意識する

「引く手あまたの昔は小町」に象徴されるように、この曲には若き日の栄華と、老いた晩年の零落という、対照的な二つの小町の面影が描かれています。この対比を意識すると、曲の情感がより深く伝わります。

結びの繰り返しに込めた追憶を丁寧に

結びの「内やゆかしき、内ぞゆかしき」では、「や」から「ぞ」への一字の変化を明確に意識します。「鸚鵡小町」の鸚鵡返しを踏まえ、老境の小町に残る気品と才知を丁寧に表現したい部分です。

「七小町」の聴きどころ

  • 「草紙洗小町」を踏まえた、小町の才知と機転を伝える冒頭
  • 「深草の少将が百夜通ひ」に込められた、通小町の切ない恋物語
  • 「日の本ならば照りもせめ」に込められた、雨乞小町の機知
  • 「関寺小町」「卒都婆小町」に描かれる、老いた小町の姿
  • 「引く手あまたの昔は小町」に込められた、栄華と零落の対比
  • 清水の観音の慈悲に重ねられた、救いへの祈り
  • 「内やゆかしき」から「内ぞゆかしき」へ一字を替える、鸚鵡返しの才知
  • 七つの物語を凝縮しながらも破綻のない、詞章の構成美

まとめ

「七小町」は、光崎検校作曲、八重崎検校箏手付による地歌・箏曲の京流手事物です。

小野小町を主人公とする七つの謡曲――草紙洗小町・通小町・雨乞小町・関寺小町・卒都婆小町・清水小町・鸚鵡小町――の故事や言葉を、掛詞や連想を用いてひとつの詞章に綴り合わせた、教養豊かな曲です。才知に富む小町と、老境の小町という異なる面影が交錯する点も大きな魅力です。

演奏を聴く際は、七つの物語それぞれの描き分けや、栄華と零落の対比、そして結びに込められた宮中への尽きない追憶にも耳を傾けると、曲の魅力がより深く味わえます。