御山獅子|歌詞の意味・菊岡検校・伊勢から鳥羽への道中を解説

「御山獅子」は、伊勢神宮の内宮周辺から二見浦、鳥羽へと至る道中の四季折々の景観を、伊勢神楽の獅子舞とともに詠み込んだ、地歌・箏曲の京風手事物です。
曲名は「みやまじし」と読みます。作詞は竹中墨子(伊勢松坂の三井家にゆかりのある人物と伝えられます)、三絃作曲は菊岡検校、箏手付は八重崎検校によるものです。曲名の「御山」は、伊勢神宮の神域にある神路山(かみじやま)を指しています。
「御山獅子」は、京風手事物の獅子物を代表する祝儀曲のひとつで、伊勢の神域の荘厳な情景から、鳥羽・二見浦の風光明媚な景色までを、四季の移ろいとともに描き出す、格式高い曲です。
「御山獅子」の基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 曲名 | 御山獅子 |
| 読み | みやまじし |
| 分類 | 地歌・箏曲、京風手事物、獅子物、祝儀曲 |
| 作詞 | 竹中墨子 |
| 三絃作曲 | 菊岡検校 |
| 箏手付 | 八重崎検校 |
| 主な編成 | 歌・三絃、箏 |
| 三絃調弦 | 本調子-二上り-高三下り |
| 箏調弦 | 半雲井調子-平調子-中空調子 |
| 構成 | 前歌-手事(マクラ・手事・中チラシ・本チラシ)-後歌 |
| 主題 | 伊勢神宮から二見浦・鳥羽へと至る道中の四季の景観と、伊勢神楽の獅子舞 |
コトバンクの解説によれば、「御山獅子」は菊岡検校作曲、八重崎検校箏手付による京風手事物の獅子物・祝儀曲で、「御山」は伊勢の神路山を指すとされています。伊勢神宮の内宮周辺の佇まいや近辺の名所旧跡、獅子舞・神楽などの行事を訪ねながら、鳥羽の二見浦にいたる道中の四季折々の景色を歌い込んだ曲です。
「御山獅子」とは
「御山獅子」は、伊勢神宮の神域から、鳥羽・二見浦へと至る道中を、ひとつの旅の情景として描いた曲です。
神路山や五十鈴川、御裳濯川といった伊勢神宮の神域を彩る名だたる場所から始まり、宇治の里の弥生(三月)の賑わい、獅子舞や神楽の奉納、二見浦の朝景色、世義寺の夕景色、鳥羽の紅葉、そして遠く富士の白雪までもが望まれるという、雄大でめでたい道行きが歌われます。
「獅子」の名を持つこの曲は、詞章の中に伊勢神楽で奉納される獅子舞が詠み込まれている点が特徴で、京風手事物の獅子物を代表する曲のひとつに数えられています。
御山獅子の歌詞
神路山、昔に変らぬ形の枝。萱の御屋根に五色の玉も、光をてらす朝日山。清き流れの
五十鈴川、御裳濯川の千鰭の、宇治の里ぞと見渡せば、頃は弥生の賑はしき、門に笹たてて
鈴の音も、獅子の舞ぞとうたひつる。山を越したる小田の橋、岩戸の前に神楽を奏し、二
見の浦の朝景色。岩間に淀む藻塩草、世義寺の夕景色、野辺の蛍や美女の遊び、添はれて
汲むや盃の、早や鳥羽口にも、みち葉を、染めて楽しむ老い人の、浅熊山の眺めも勝る廐の
院、晴れ渡りたる富士の白雪。
※本記事の歌詞は、尺八譜に掲載された詞章を底本としています。判読の難しい箇所は本記事冒頭の備考をご参照ください。譜本や流派によって表記が異なる場合もあります。
歌詞全体の意味
神路山は、昔と変わらぬ姿の梢を見せています。萱葺きの御屋根には五色の玉も輝き、朝日山にはその光が照り渡ります。清らかに流れる五十鈴川、御裳濯川のほとりを行くと、
宇治の里だと見渡してみれば、ちょうど弥生(三月)の賑やかな時節です。門ごとに笹を立てて、鈴の音とともに、獅子の舞が奉納されると歌われています。
山を越えたところにある小田の橋、岩戸の前では神楽が奏でられ、二見の浦の朝の景色が広がります。
岩間に淀む藻塩草、世義寺の夕暮れの景色、野辺に飛ぶ蛍や、美しい女性たちの遊び。それに寄り添うように盃を汲み交わすうち、早くも鳥羽の入り口にたどり着きます。色づく紅葉を眺めて楽しむ老人の姿、浅熊山の眺めにも勝るという厩の院、そして遠く晴れ渡る富士の白雪までもが望まれます。
曲名「御山獅子」の意味
「御山」は、伊勢神宮の神域にある神路山を指す言葉です。
「獅子」は、詞章の中で歌われる、伊勢神楽の獅子舞に由来します。神域を彩る荘厳な情景と、賑やかに奉納される獅子舞とが、ひとつの曲名の中に重ね合わされています。
曲名には、
- 伊勢神宮の神域である、神路山への敬意
- 弥生の賑わいの中で奉納される、伊勢神楽の獅子舞
- 神域から鳥羽・二見浦へと続く、道中の四季の景観
- 富士の白雪にまで至る、雄大でめでたい結び
といった意味が重ねられています。
「神路山昔に変らぬ形の枝萱の御屋根に五色の玉も光をてらす朝日山清き流れの五十鈴川御裳濯川の」
冒頭では、伊勢神宮の神域を彩る名だたる場所が歌われます。
神路山の変わらぬ姿、萱葺きの御屋根、朝日山、五十鈴川、御裳濯川と、伊勢神宮にゆかりの深い名所が次々と歌われ、神域の荘厳な雰囲気が描かれます。
「宇治の里ぞと見渡せば頃は弥生の賑はしき門に笹たてて鈴の音も獅子の舞ぞとうたひつる」
続いて、宇治の里の賑やかな春の情景が歌われます。
弥生(三月)の賑わいの中、門ごとに笹を立てて祝う様子とともに、鈴の音に合わせて奉納される獅子の舞が歌われます。この一節が、曲名「御山獅子」の由来にもなっている部分です。
「山を越したる小田の橋岩戸の前に神楽を奏し二見の浦の朝景色」
この一節では、小田の橋を越えた先の情景が歌われます。
岩戸の前で神楽が奏でられる様子とともに、伊勢の名勝として知られる二見浦の朝景色が描かれます。
「岩間に淀む藻塩草世義寺の夕景色野辺の蛍や美女の遊び添はれて汲むや盃の早や鳥羽口にもみち葉を染めて楽しむ老い人の浅熊山の眺めも勝る廐の院晴れ渡りたる富士の白雪」
結びでは、夕景から鳥羽へと続く、道中の情景が歌われます。
岩間に淀む藻塩草、世義寺の夕景色、野辺を飛ぶ蛍や美しい女性たちの遊びに、盃を汲み交わす楽しさが重なり、やがて鳥羽の入り口へとたどり着きます。紅葉を楽しむ老人の姿や、浅熊山の眺めにも勝るという厩の院、そして遠く富士の白雪までもが望まれるという、雄大でめでたい情景で曲は結ばれます。
手事の特徴
「御山獅子」の手事は、マクラ・手事・中チラシ・本チラシという段階を踏んで展開します。
京風手事物の獅子物らしい、華やかで技巧的な器楽的展開が特徴です。三絃は本調子から二上り、高三下りへと調弦を変え、箏も半雲井調子から平調子、中空調子へと変化する、変化に富んだ構成になっています。
曲の構成
「御山獅子」は、大きく次のように捉えると分かりやすい曲です。
- 前歌
- 手事(マクラ・手事・中チラシ・本チラシ)
- 後歌
前歌
前歌では、伊勢神宮の神域から宇治の里の賑わい、獅子舞の奉納までが歌われます。
手事
手事はマクラから始まり、本手事、中チラシ、本チラシへと展開する、技巧的な聴かせどころです。
後歌
後歌では、二見浦から世義寺、鳥羽へと続く道中の景色が歌われ、富士の白雪を望む雄大な結びで曲は締めくくられます。
三絃の役割
三絃は、本調子から二上り、高三下りへと調弦を変えながら、伊勢神宮の神域から鳥羽へと至る道中の情景を描き分けます。
菊岡検校による旋律は、神域の荘厳さと、旅の道中の華やかさの両方を兼ね備えた作りになっています。
箏の役割
箏の手付は八重崎検校によるもので、半雲井調子から平調子、中空調子へと調弦が変化します。
三絃の旋律に寄り添いながら、伊勢から鳥羽へと続く道中の景観に、彩りを添えます。
演奏するときのポイント
神域の荘厳さと道中の華やかさを描き分ける
前歌では伊勢神宮の神域の荘厳な情景が、後歌では鳥羽・二見浦へと続く道中の華やかな景色が歌われます。この対比を意識して演奏すると、曲全体の奥行きが伝わりやすくなります。
獅子舞の賑わいを生き生きと
「門に笹たてて鈴の音も、獅子の舞ぞとうたひつる」の一節は、この曲の曲名の由来にもなった部分です。弥生の賑わいと獅子舞の躍動感を、生き生きと表現することが大切です。
名所ごとの情景を丁寧に描く
歌詞には、神路山、五十鈴川、二見浦、世義寺、鳥羽、富士と、数多くの名所が登場します。それぞれの場所が持つ情趣を意識して演奏すると、道中の旅としての趣がより伝わります。
「御山獅子」の聴きどころ
- 神路山・五十鈴川・御裳濯川と歌われる、伊勢神宮の神域の荘厳な冒頭
- 弥生の賑わいの中で奉納される、伊勢神楽の獅子舞
- 二見浦の朝景色や世義寺の夕景色など、四季折々の名所の描写
- 鳥羽へと向かう道中に描かれる、盃を汲み交わす楽しさ
- 富士の白雪にまで至る、雄大でめでたい結び
- 本調子-二上り-高三下りと変化に富む、三絃の調弦
- マクラ・手事・中チラシ・本チラシと展開する、技巧的な手事
- 京風手事物の獅子物を代表する、祝儀曲としての格
まとめ
「御山獅子」は、菊岡検校作曲、八重崎検校箏手付による地歌・箏曲の京風手事物・獅子物です。
伊勢神宮の神域から、宇治の里の獅子舞、二見浦、世義寺、鳥羽へと至る道中の四季の景観を、雄大でめでたい詞章の中に描き出しています。曲名の「御山」は伊勢の神路山を、「獅子」は詞章に詠み込まれた伊勢神楽の獅子舞を指しており、祝儀曲としての格の高さを持つ曲です。
演奏を聴く際は、神域の荘厳さと道中の華やかさの対比、獅子舞の賑わい、そして富士の白雪にまで至る雄大な結びにも耳を傾けると、曲の魅力がより深く味わえます。