曲目・歌詞解説

越後獅子|歌詞の意味・峰崎勾当・角兵衛獅子との関係を解説

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「越後獅子」は、越後の角兵衛獅子を題材にした地歌箏曲です。

作曲は峰崎勾当とされ、天明・寛政期ごろに大坂で作られた地歌の手事物として伝えられています。角兵衛獅子は、越後、現在の新潟県を本拠とし、子どもたちが小さな獅子頭をつけ、笛や太鼓に合わせて踊りや軽業を見せながら諸国を巡った門付芸です。国立劇場文化デジタルライブラリーでも、越後獅子は角兵衛獅子や越後名物を歌う「獅子物」の代表曲として紹介されています。

地歌「越後獅子」は、のちに長唄「越後獅子」にも大きな影響を与えました。長唄版は文化8年、1811年に江戸中村座で初演された七変化舞踊の一曲で、地歌「越後獅子」や「晒」などを取り入れて作られたと説明されています。

「越後獅子」の基本情報

項目内容
曲名越後獅子
読みえちごじし
分類地歌・箏曲、手事物、獅子物
作詞不詳
三絃作曲峰崎勾当
箏手付・編曲八重崎検校、市浦検校、米川文子など、資料・譜本により異なる表記あり
成立天明・寛政期ごろ
題材越後の角兵衛獅子、越後名物、獅子舞
構成前歌・三段の手事・後歌を中心とする構成
主な編成歌・三絃、箏、尺八など
主題越後の名物尽くし、獅子舞、旅芸人、地方色、洒落・掛詞

峰崎勾当は、江戸後期に大坂で活躍した地歌三絃家・作曲家で、「越後獅子」「東獅子」「有馬獅子」「残月」「雪」などの作品で知られます。地歌の端歌物・手事物の発展に大きく関わった作曲家として説明されています。

「越後獅子」とは

「越後獅子」は、越後の風俗や名物を歌い込みながら、獅子舞の賑やかさを地歌の手事物としてまとめた曲です。

歌詞には、越路潟、直江浦、米山、糸魚川、草浦、末松山、白布、縮など、越後に関わる地名や名物を思わせる言葉が次々に登場します。

ただし、単なる地理案内ではありません。

地名や名物に、恋、浮気、糸のもつれ、肌に透ける縮、獅子舞の太鼓や笛といった言葉を重ね、洒落や掛詞を多く含んだ詞章になっています。

角兵衛獅子の旅芸、越後名物尽くし、地歌らしい言葉遊び、そして手事の器楽的な華やかさが一体となった作品です。

越後獅子の歌詞

越路潟、
お国名物さまざまなれど、
田舎なまりの片言まじり、
しらうさぎなる言の葉に、
面白がらしそうなことを、

直江浦の海士の子が、
七つか八つ目鰻まで、
うむやあみその綱手とは、
恋の心も米山の、
遠き浮気で黄蓮も、
なに糸魚川糸魚の、
もつれもつるる草浦の、
油漆と交はりて、
末松山の白布の、
縮みは肌のどこやらが、
見え透く国の風流を、
うつし太鼓や笛の音も、
弾いて唄ふや獅子の曲。

向かひ小山のしちく竹、
枝節揃へて、
切りを細かに十七が、
室の小口に昼寝して、
花の盛りを夢に見てそろ。

夢の占象、越後の獅子は、
牡丹は持たねど富貴は、
おのが姿に咲かせ舞ひ納め、
姿に咲かせて舞ひ納む。

※歌詞には譜本や流派によって、「越路潟/越路がた」「直江浦/直江の浦」「糸魚川/いとい川」「糸魚/いとうお」「黄蓮/黄連」「交はりて/まじはりて」「舞ひ納め/舞い納む」などの表記差があります。本記事では使用譜の表記に合わせます。

公開詞章や楽曲データベースでは、峰崎勾当作曲の「越後獅子」として、上記とほぼ同じ詞章が確認できます。JAMUの楽曲データでは、楽器構成を歌・箏・三弦・尺八、手事を三段構成とし、長唄「越後獅子」はこの地歌を取り入れたものと説明しています。

歌詞全体の意味

越後には、さまざまな名物があります。

田舎なまりの片言まじりの言葉で、いかにも面白そうに語られる越後の風俗や名物。その中に、直江浦の海士の子、八つ目鰻、網の綱手、米山、糸魚川、草浦、白布、越後縮などが次々と詠み込まれていきます。

しかし、歌詞は単に越後の産物を並べているだけではありません。

網の綱手には恋の手、米山には遠い心、糸魚川には糸のもつれ、白布や縮には肌に透ける風流が重ねられています。

やがて太鼓や笛の音が響き、獅子舞の曲として、三絃や箏によって歌い奏でられます。

後半では、竹の節、十七絃を思わせる語、夢、牡丹、富貴といった言葉が現れます。

獅子には牡丹が似合うとされますが、越後の獅子は牡丹を持たなくても、自分自身の姿を花のように咲かせて舞い納めます。

地方色、洒落、恋の気配、獅子舞の華やかさが混じり合うのが、「越後獅子」の歌詞の面白さです。

曲名「越後獅子」の意味

「越後獅子」とは、越後の角兵衛獅子を指します。

角兵衛獅子は、越後国蒲原郡の月潟周辺を本拠とする門付芸として知られます。子どもが獅子頭をかぶり、太鼓や笛に合わせて踊りや軽業を見せながら各地を巡った芸能です。

この曲では、そうした角兵衛獅子を直接写実的に描くだけではなく、越後の名物や地名を次々と織り込み、地歌の手事物として芸術的に構成しています。

「獅子」は、獅子舞の躍動感、子ども芸人の軽業、太鼓や笛の賑やかさを感じさせる言葉です。

地歌「越後獅子」では、その賑やかさを三絃・箏・尺八の合奏によって表現します。

「越路潟」と越後の名物尽くし

冒頭の「越路潟」は、越後の国を思わせる導入です。

「お国名物さまざまなれど」と続くため、これから越後の土地や産物、風俗を数え上げることが示されます。

「名物尽くし」は、地歌や長唄、民謡などでよく見られる構成です。

各地の地名や名産を並べながら、その音や意味を利用して洒落や掛詞を作ります。

「越後獅子」では、名物尽くしがただの紹介ではなく、恋や浮気、糸のもつれ、肌に透ける縮といった艶のある表現へつながっていきます。

「田舎なまりの片言まじり」

「田舎なまりの片言まじり」は、越後から来た角兵衛獅子の素朴な語り口を思わせます。

都や大坂の洗練された言葉ではなく、地方の訛りを含んだ言葉です。

ただし、ここには単なる田舎扱いではなく、地方色の面白さがあります。

角兵衛獅子は、諸国を巡って芸を見せる存在です。その土地の言葉や素朴な響きは、観客にとって一種の見世物的な魅力でもありました。

「直江浦の海士の子」

直江浦は、現在の新潟県上越市周辺に関わる地名として読めます。

「海士の子」は、海辺で働く人々の子、海の民の子を表します。

越後獅子は山国の芸能という印象もありますが、歌詞には海辺の風景も入っています。

越後という国を、山、海、川、名産を含む広い土地として描いていることが分かります。

「八つ目鰻」と「網の綱手」

「七つか八つ目鰻」は、八つ目鰻を思わせる言葉です。

八つ目鰻は川や海と関係する生き物で、越後の水辺の名物として歌い込まれていると考えられます。

「うむやあみその綱手」は、網を作ること、網の綱、または舟を引く綱を連想させます。

ここには、水辺の労働、漁の道具、そして人と人をつなぐ恋の手が重なります。

「恋の心も米山の」

米山は、越後の名山として知られます。

歌詞では、

恋の心も米山の

と続きます。

山は遠くに見えるものです。

そのため、恋の心が遠く隔たっていること、あるいは相手の心が遠くなっていることを感じさせます。

次の「遠き浮気」ともつながり、越後の地名が男女の心の距離へ転じています。

「遠き浮気で黄蓮も」

「黄蓮」は、苦味のある薬草として知られます。

「遠き」と「当帰」、「黄蓮」など、薬草名や音の響きが掛けられていると考えられる部分です。

ここでは、遠くなった心、浮気、苦味が重なります。

恋の洒落を、地名や名物、薬草名のような語に絡めて展開するところが、地歌らしい言葉の遊びです。

「糸魚川」と糸のもつれ

糸魚川は越後の地名です。

歌詞では、

なに糸魚川糸魚の、
もつれもつるる

と続きます。

「糸魚川」の「糸」によって、糸のもつれが導かれます。

恋の心も、糸のようにもつれます。

越後の地名をきっかけに、男女の関係のもつれへと意味が転じていく部分です。

「末松山の白布」と越後縮

「白布」や「縮」は、越後の織物を思わせます。

越後縮は、越後を代表する麻織物として知られます。歌詞では、白い布や縮の肌ざわり、透けるような質感が、艶のある表現へつながっています。

縮みは肌のどこやらが
見え透く国の風流を

という部分は、織物の薄さや涼しさを歌いながら、同時に色気を感じさせます。

越後名物の紹介が、地歌らしい艶の表現へ変わるところです。

「太鼓や笛の音」

歌詞は、越後の名物尽くしから、獅子舞の音へ進みます。

角兵衛獅子は、笛や太鼓に合わせて踊りや軽業を見せる芸能です。

うつし太鼓や笛の音も
弾いて唄ふや獅子の曲

とあるように、太鼓や笛の響きを、三絃や箏で写し取るように演奏する曲でもあります。

つまり「越後獅子」は、歌詞で越後の風俗を語るだけでなく、音楽そのものによって獅子舞の躍動感を表す作品です。

「獅子の曲」

「獅子の曲」と結ばれる前歌によって、この曲の主題が明確になります。

越後名物、地名、恋の洒落、織物の風流などが並んだ末に、それらはすべて獅子舞の曲へとまとめられます。

「獅子物」は、獅子舞や獅子に関わる芸能を題材にした曲の総称です。

地歌・箏曲には、「越後獅子」のほか、「吾妻獅子」「有馬獅子」「難波獅子」「御山獅子」など、獅子を題材にした曲があります。

「向かひ小山のしちく竹」

後半の「しちく竹」は、紫竹、または楽器の材料となる竹を思わせる表現です。

枝や節が揃い、細かく切られるという言葉から、竹の材、笛、あるいは器楽的な細かな動きが連想されます。

歌詞の解釈には難しい箇所もありますが、獅子舞に伴う笛や、細かい音の動きと結び付けて読むと自然です。

「花の盛りを夢に見てそろ」

ここでは、昼寝の夢の中に花の盛りが現れます。

獅子と牡丹の取り合わせは、古くから華やかな図像として知られます。

獅子は牡丹とともに描かれることが多く、次の「牡丹は持たねど」へつながります。

夢の中に花の盛りを見ることで、曲は現実の門付芸から、舞台的・絵画的な華やかさへ移っていきます。

「牡丹は持たねど富貴は」

牡丹は、富貴の象徴とされる花です。

獅子と牡丹は、絵画や工芸、舞踊などでよく組み合わされます。

歌詞では、

越後の獅子は、
牡丹は持たねど富貴は、
おのが姿に咲かせ

と歌います。

越後獅子は牡丹を手に持っているわけではありません。

しかし、獅子自身の舞う姿が、まるで牡丹の花を咲かせるように華やかである、とたたえています。

「姿に咲かせて舞ひ納む」

曲の最後は、獅子が自らの姿を花のように咲かせて舞い納める、という華やかな結びになります。

これは、角兵衛獅子の芸の締めくくりを思わせます。

歌詞の前半では、越後の名物や地名が洒落を交えて歌われました。

後半では、獅子そのものの舞姿へ焦点が移り、最後には芸としての華やかさを残して終わります。

長唄「越後獅子」との関係

「越後獅子」という曲名は、地歌だけでなく、長唄の曲としても非常によく知られています。

長唄「越後獅子」は、文化8年、1811年に江戸中村座で初演された七変化舞踊『遅桜手爾葉七字』の一曲です。作曲は九代目杵屋六左衛門、作詞は松井幸三とされ、江戸市中を歩く角兵衛獅子を題材にしています。

長唄版は、地歌「越後獅子」や「晒」、民謡などから歌詞や旋律を取り入れて作られたと説明されています。

そのため、地歌「越後獅子」と長唄「越後獅子」は、題材も一部の詞章も関係していますが、同じ曲そのものではありません。

地歌版は、峰崎勾当による地歌手事物として、三絃・箏の器楽的な手事を中心に味わう曲です。

長唄版は、歌舞伎舞踊のための曲として、舞踊性や江戸風の華やかさが強く出ます。

曲の構成

「越後獅子」は、手事物として扱われる曲です。

大きくは次のように捉えると分かりやすいです。

  1. 前歌
  2. 手事初段
  3. 手事二段
  4. 手事三段
  5. 後歌

JAMUの楽曲データでは、「越後獅子」は手事物の古典曲として代表的な曲の一つで、手事は三段構成と説明されています。

前歌

前歌では、越後の名物、地名、恋の洒落、織物の風流が歌われます。

歌詞の言葉遊びが多いため、ただ流して歌うのではなく、地名と掛詞の関係を意識すると面白さが伝わります。

手事初段

手事に入ると、歌詞から離れ、三絃・箏が器楽的に展開します。

獅子舞の躍動感、太鼓や笛の響き、軽業の動きが、音の運びによって表されます。

手事二段

二段目では、合奏の絡みが深まり、手事物としての聴きどころが広がります。

同じ獅子物でも、単なる賑やかさではなく、地歌らしい間や掛け合いが重要です。

手事三段

三段目では、後歌へ向かって曲がまとまっていきます。

勢いだけで進むのではなく、舞い納めへ向かう流れを作ります。

後歌

後歌では、獅子の夢、牡丹、富貴、舞い納めが歌われます。

前歌で越後の風俗を広く歌ったのに対し、後歌では獅子そのものの姿へ焦点が集まります。

最後は、獅子が自分の姿に花を咲かせるように舞い納める、華やかな余韻で結ばれます。

三絃の役割

三絃は、歌詞の洒落と手事の躍動を支える中心です。

前歌では、越後の地名や名物を次々に運びます。語りすぎると曲が重くなり、軽すぎると洒落が伝わりません。

手事では、撥音によって獅子舞の軽快さや、太鼓・笛を思わせるリズム感を作ります。

峰崎勾当の手事物らしく、歌と器楽の対比が大きな聴きどころです。

箏の役割

「越後獅子」の箏手付・編曲には、資料によって複数の伝承があります。

正派の録音資料では、峰崎勾当を三絃原作、八重崎検校を箏手付としている例があります。

一方、CiNii Booksに登録されている宮城道雄著『越後獅子 : 生田流箏曲』では、三絃を峰崎勾当作曲、琴を市浦検校移調と記しています。

また、日本伝統文化振興財団『箏曲地歌大系』には、峰崎勾当作曲、米川文子による箏編曲として収録された録音もあります。

そのため記事では、箏手付を一人に断定せず、使用譜に合わせて記載するのが適切です。

尺八の役割

尺八を加えた三曲合奏では、尺八が三絃・箏の間に息の流れを加えます。

「越後獅子」は、獅子舞の賑やかさを持つ曲ですが、尺八が強く吹きすぎると、地歌らしい洒落や手事の細やかさが隠れてしまいます。

太鼓や笛を直接まねるというより、獅子舞の空気、旅芸人の歩み、越後の風景、手事の躍動を支える役割として考えると、合奏がまとまりやすくなります。

演奏するときのポイント

名物尽くしを単調にしない

前歌には地名や名物が多く出てきます。

すべてを同じ調子で歌うと、言葉の面白さが伝わりにくくなります。

地名、名物、恋の洒落、獅子舞へ向かう流れを意識して、言葉の表情を少しずつ変えます。

洒落を品よく聞かせる

「糸魚川」と糸のもつれ、「米山」と遠い心、「白布」「縮」と肌の透ける風流など、歌詞には艶のある洒落が多く含まれます。

露骨に強調しすぎると品が崩れます。

言葉の裏にある意味が自然に伝わる程度に扱うと、地歌らしい面白さが出ます。

手事は獅子舞の躍動を意識する

手事は、この曲の大きな聴きどころです。

獅子舞の動き、軽業、太鼓や笛の響きを感じさせながらも、拍子だけで押し切らず、地歌の間を保ちます。

長唄版とは分けて考える

長唄「越後獅子」は舞踊曲として非常に有名ですが、地歌版とは性格が違います。

地歌版を演奏するときは、江戸の舞踊曲の明るさだけでなく、大坂地歌の手事物としての構成、三絃と箏の器楽的な味わいを大切にします。

後歌は舞い納めの華やかさを出す

最後は「姿に咲かせて舞ひ納む」と結ばれます。

勢いよく終えるだけでなく、獅子が花を咲かせるように舞い納める姿を感じさせます。

「越後獅子」の聴きどころ

  • 越後名物を次々に織り込む詞章
  • 地名と恋の洒落が重なる言葉遊び
  • 糸魚川、白布、縮などの掛詞的な面白さ
  • 角兵衛獅子を思わせる太鼓や笛の描写
  • 三段の手事に広がる獅子舞の躍動感
  • 三絃と箏の掛け合い
  • 長唄「越後獅子」へ影響を与えた地歌としての重要性
  • 獅子と牡丹を思わせる華やかな後歌
  • 「姿に咲かせて舞ひ納む」の結び

まとめ

「越後獅子」は、峰崎勾当作曲による地歌・箏曲の手事物です。

越後の角兵衛獅子を題材とし、越後の地名や名物を次々に詠み込みながら、恋の洒落、糸のもつれ、越後縮の風流、太鼓や笛の音、獅子舞の華やかさを描きます。

手事は三段構成とされ、獅子舞の躍動感を三絃・箏の器楽的な展開で味わえる点が大きな聴きどころです。

また、長唄「越後獅子」は、地歌「越後獅子」や「晒」などを取り入れて作られた舞踊曲として知られています。

地歌版を聴く際は、長唄版の華やかな舞踊性だけでなく、峰崎勾当の手事物としての構成、越後名物尽くしの詞章、三絃と箏が作る獅子舞の動きにも注目すると、曲の面白さがより深く見えてきます。