曲目・歌詞解説

青柳|歌詞の意味・石川勾当・遊行柳と若菜上を解説

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「青柳」は、謡曲「遊行柳」の詞章を土台に、『源氏物語』「若菜上」の柏木と女三の宮の恋物語を織り込んだ、地歌箏曲京流手事物です。

曲名は「あおやぎ」と読みます。正式名称は「新青柳」で、これは古くからある三味線組歌の「青柳」と区別するための呼び名ですが、実際にはこちらの手事物のほうが「青柳」の名で広く親しまれています。三絃作曲は石川勾当、箏手付八重崎検校によるものです。

「青柳」は、「融」「八重衣」とともに「石川の三つ物」と呼ばれる、石川勾当の代表作三曲のひとつに数えられています。

「青柳」の基本情報

項目内容
曲名青柳(正式名称:新青柳)
読みあおやぎ
分類地歌・箏曲、京流手事物、「石川の三つ物」の一つ
作詞不詳(詞章は謡曲「遊行柳」の一節を大きく用い、その部分に『源氏物語』「若菜上」の蹴鞠場面が織り込まれる)
三絃作曲石川勾当(江戸後期、京都を中心に活躍)
箏手付八重崎検校
主な編成歌・三絃、箏(三絃独奏でも演奏される)
三絃調弦本調子二上り三下り
構成二つの手事。後半の手事に中チラシ後チラシを含む
主題謡曲「遊行柳」の詞章を土台に、源氏物語「若菜上」の柏木と女三の宮の恋物語を重ねた曲

複数の解説サイトによれば、「青柳」(新青柳)は石川勾当作曲、八重崎検校箏手付による京流手事物で、謡曲「遊行柳」から詞章を採りながら、そこに『源氏物語』第34帖「若菜上」の、蹴鞠の場で柏木が女三の宮の姿を垣間見る場面を織り込んだ曲とされています。「融」「八重衣」とあわせて「石川の三つ物」と呼ばれる代表作です。

「青柳」とは

「青柳」は、謡曲「遊行柳」の言葉づかいを借りながら、『源氏物語』の名場面を重ね合わせた曲です。

謡曲「遊行柳」は、奥州・白河のほとりで年老いた柳の精が、諸国を巡る遊行上人の前に現れるという物語です。柳の精は西行の歌「道のべに清水流るる柳かげしばしとてこそ立ちどまりつれ」の故事を語り、やがてその姿を現して舞を舞います。

一方、地歌「青柳」の前半で歌われるのは、京の御所で催される蹴鞠(けまり)の遊びの華やかな情景です。ここには、『源氏物語』「若菜上」で、蹴鞠に興じる貴公子たちの中で柏木が御簾の隙間からこぼれ出た猫を追いかけ、そこに女三の宮の姿を垣間見てしまうという、有名な場面が重ねられています。

後半では一転して、老いた柳の精と思われる存在が、風にたゆたうように舞う姿が描かれ、謡曲「遊行柳」の幻想的な結びの雰囲気に回帰します。

青柳の歌詞

されば都は花盛り、大宮人の御遊にも、蹴鞠(しゅうきく)の庭の面、四本の木蔭枝垂れて、暮に数ある沓の音、
柳桜をこきまぜて、錦を飾る諸人の、華やかなるや小簾のひま。洩れくる風の匂ひ来て、
手飼ひの虎の引き綱も、長き思ひの楢の葉の、その柏木も及びなき、恋路はよしなしや。

これ老いたる柳の色の、狩衣(かりぎぬ)も風折(かざおり)も、風に漂ふ足もとの、たよたよとして、なまやかに、立ち舞ふ振りの面白や。
げに夢人を現にぞ見る。げに夢人を現にぞ見る。

※本記事の歌詞は、譜本や流派によって表記が異なる場合があります。

歌詞全体の意味

そういうわけで、都はまさに花盛りです。宮中の方々の御遊びである蹴鞠の庭にも、柳の四本の木陰が枝垂れかかり、夕暮れ時には多くの沓の音が響いています。

柳と桜の花が入り混じり、錦を身にまとった人々の華やかな姿が、御簾のすきまからうかがえます。そこから漏れてくる風に乗って、香りが漂ってきます。

手なずけて飼う虎の引き綱――長々と引くというその縁から、長きにわたる思いを寄せる楢(なら)の葉、その葉にちなむ「柏木」でさえも及ばないほどに、この恋の道はどうしようもないものです。

これは、老いた柳の色をまとったような姿。狩衣も風折烏帽子も、風に漂う足もとも、たよたよと頼りなく、なまめかしく、立って舞うその姿の面白いことでしょう。まことに、夢の中で見た人を、現実にこの目で見ているかのようです。まことに、夢の中で見た人を、現実にこの目で見ているかのようです。

曲名「青柳」の意味

「青柳」は、風にしなやかに揺れる柳の若木を指す言葉です。

もとになった謡曲「遊行柳」では、年老いた柳の精が旅の僧の前に姿を現し、長い年月を見つめてきた柳としての来し方を語ります。地歌「青柳」は、この柳の精の面影と、源氏物語の恋物語とを重ね合わせています。

曲名には、

  • 謡曲「遊行柳」に登場する、老いた柳の精の面影
  • 風にたゆたうように舞う、しなやかな柳の姿
  • 「楢の葉の柏木」に掛けられた、源氏物語の柏木という人物名
  • 蹴鞠の庭で交わされる、若菜上の巻の恋の始まり

といった意味が重ねられています。

「されば都は花盛り大宮人の御遊にも蹴鞠の庭の面四本の木蔭枝垂れて暮に数ある沓の音」

冒頭では、都が花盛りを迎え、宮中の人々が蹴鞠に興じる様子が歌われます。

「大宮人の御遊」は、宮中の人々の優雅な遊びを指す言葉です。蹴鞠の庭に柳の木陰が枝垂れかかり、夕暮れ時には多くの人が行き交う沓の音が響くという、華やかな宮廷の情景から曲は始まります。

「柳桜をこきまぜて錦を飾る諸人の華やかなるや小簾のひま洩れくる風の匂ひ来て」

続いて、柳と桜が入り混じる庭で、着飾った人々の華やかさが歌われます。

「小簾(おす)のひま」は、御簾のすきまを意味します。御簾の向こうに見え隠れする華やかな装いと、そこから漂ってくる風の香りが、艶やかな情景として描かれます。

「手飼ひの虎の引き綱も長き思ひの楢の葉のその柏木も及びなき恋路はよしなしや」

この一節には、複雑な言葉の重なりが込められています。

「手飼ひの虎の引き綱」は、なつけて飼う虎の引き綱を長く引くという連想から「長き」を導き出す序詞(じょことば、意味よりも音や連想であとの言葉を引き出す古典的な修辞技法)です。「長き思ひ」からさらに「楢の葉」を経て「柏木」へとつながる言葉遊びには、木の葉としての柏木と、源氏物語に登場する人物・柏木とが重ね合わされています。この恋路はどうしようもないものだ、という結びには、道ならぬ恋の切なさがにじんでいます。

「これ老いたる柳の色の狩衣も風折も風に漂ふ足もとのたよたよとしてなまやかに立ち舞ふ振りの面白や」

後半に入ると、老いた柳の精と思われる存在の舞姿が描かれます。

狩衣や風折烏帽子をまとい、風に漂うように、たよたよと頼りなく、それでいてなまめかしく舞う姿は、謡曲「遊行柳」の終盤で柳の精が舞を見せる場面を思わせます。

「げに夢人を現にぞ見るげに夢人を現にぞ見る」

結びでは、「夢の中で見た人を、現実にこの目で見ているようだ」という一節が、同じ言葉のまま二度繰り返されます。

この反復は、地歌のチラシ(曲の締めくくりにあたる、華やかで技巧的な部分)によく見られる手法です。夢と現実が入り混じるような幻想的な余韻を残しながら、曲は結ばれます。

謡曲「遊行柳」と源氏物語「若菜上」

「青柳」の詞章は、謡曲「遊行柳」の一節を大きく用いています。その中に、『源氏物語』「若菜上」の蹴鞠場面が織り込まれています。

謡曲「遊行柳」は、観世信光作と伝えられる能で、諸国を巡る遊行上人が奥州・白河の柳の下で老翁に出会い、それが柳の精であったことが明かされるという物語です。西行の歌にちなむ「朽木の柳」の故事を語り、やがて舞を舞う姿には、長い年月を見つめてきた者だけが持つ、独特の哀愁が漂います。

一方、『源氏物語』「若菜上」は、光源氏の晩年を描く帖のひとつで、六条院で催された蹴鞠の遊びの最中、柏木が御簾の下からこぼれ出た猫を追いかけたことをきっかけに、女三の宮の姿を垣間見てしまう場面が描かれます。この出来事が、のちの悲恋へとつながっていきます。

二つの物語を対等に接合したというより、謡曲「遊行柳」の詞章を中心に、その蹴鞠の描写へ「若菜上」の柏木と女三の宮を連想させる言葉が織り込まれた関係として捉えるのが適切です。

手事の特徴

「青柳」には二つの手事があります。後半の手事には中チラシと後チラシが含まれています。

三絃は本調子から二上り、三下りへと調弦を変えながら展開し、「石川の三つ物」にふさわしい、技巧的で聴き応えのある構成になっています。

曲の構成

「青柳」は、大きく次のように捉えると分かりやすい曲です。

  1. 前歌
  2. 第一の手事
  3. 第二の手事(中チラシ・後チラシを含む)
  4. 後歌

前歌

前歌では、都の花盛りと蹴鞠の庭の華やかな情景、そしてそこに重ねられた柏木と女三の宮の恋の道ならぬ思いが歌われます。

二つの手事

二つの手事を通して、三絃は本調子から二上り、三下りへと転じながら技巧的に展開します。後半の手事には中チラシ・後チラシが含まれます。

後歌

後歌では、老いた柳の精を思わせる存在が風にたゆたうように舞う姿が歌われ、「げに夢人を現にぞ見る」という幻想的な繰り返しで曲は結ばれます。

三絃の役割

三絃は本調子から二上り、三下りへと調弦を変えながら、宮廷の華やかさと柳の精の幻想的な舞姿の両方を描き分けます。

石川勾当による旋律は、「融」「八重衣」と並ぶ「石川の三つ物」の一角として、技巧性と品格を兼ね備えた作りになっています。

箏の役割

箏の手付は八重崎検校によるもので、三絃の調弦の変化に寄り添いながら、曲全体に彩りを添えます。

尺八の役割

「青柳」は本来、歌・三絃と箏による曲ですが、尺八を加えた演奏例もあるとされています。三曲合奏で演奏される際は、三絃・箏の呼吸に合わせることが求められます。

演奏するときのポイント

蹴鞠の庭の華やかさを描く

前歌では、都の花盛りと蹴鞠に興じる宮廷の人々の華やかな情景が歌われます。柳桜が入り混じる情景を、明るく華やかに描くことが大切です。

「柏木」に込められた二重の意味を意識する

「楢の葉の柏木」には、木の葉としての柏木と、源氏物語の人物・柏木という二重の意味が込められています。この言葉遊びを意識すると、恋の切なさがより深く伝わります。

柳の精の舞を幻想的に

後歌では、老いた柳の精を思わせる存在の舞姿が描かれます。たよたよとした足取りと、なまめかしさを併せ持つ、幻想的な雰囲気を大切にします。

「げに夢人を現にぞ見る」の繰り返しを丁寧に

結びの一節は、同じ言葉が二度繰り返されるチラシらしい部分です。夢と現実が溶け合うような余韻を残しながら、丁寧に締めくくります。

「青柳」の聴きどころ

  • 都の花盛りと蹴鞠の庭を描いた、華やかな冒頭
  • 「手飼ひの虎の引き綱」に込められた、序詞としての巧みな言葉の連なり
  • 「楢の葉の柏木」に重ねられた、源氏物語の柏木という人物名
  • 謡曲「遊行柳」を思わせる、老いた柳の精の幻想的な舞姿
  • 「げに夢人を現にぞ見る」という、夢と現実が溶け合う結びの繰り返し
  • 本調子-二上り-三下りと変化に富む、三絃の調弦
  • 「融」「八重衣」とともに「石川の三つ物」に数えられる、代表作としての格
  • 八重崎検校による、繊細な箏の手付け

まとめ

「青柳」は、石川勾当作曲、八重崎検校箏手付による地歌・箏曲の京流手事物です。正式名称は「新青柳」ですが、「青柳」の名で広く親しまれています。

謡曲「遊行柳」の詞章を大きく用い、その蹴鞠の描写に『源氏物語』「若菜上」で柏木が女三の宮を垣間見る場面を織り込み、老いた柳の精の幻想的な舞姿へとつながる曲です。二つの手事を持ち、「融」「八重衣」とともに「石川の三つ物」と呼ばれる、石川勾当の代表作のひとつでもあります。

演奏を聴く際は、蹴鞠の庭の華やかさと恋の道ならぬ思いとの対比、「柏木」に込められた言葉遊び、そして柳の精の舞を思わせる後歌の幻想的な余韻にも耳を傾けると、曲の魅力がより深く味わえます。